森林生態系(世界自然遺産・緑の回廊等)のモニタリングと自然再生
わが国にはさまざまなタイプの森林が分布しており、これらの森林では地域固有の生態系を形成しています。そのうち世界自然遺産に登録されている屋久島(1993年登録)や小笠原諸島(2011年登録)、奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島(2021年登録)では、貴重な森林生態系が外来種や増加したヤクシカ、オーバーユース等の脅威にさらされている状況が課題となっています。これらの森林生態系を保護・保全し、後世までその価値を継承していくことが求められています。私たちは、これら重要地域の生態系や多様性の保全を目指した各種調査やモニタリング及び検討委員会の開催・運営等を実施するとともに、世界遺産としての価値を維持するため、最新の知見を反映した森林修復手法の提案や管理計画・モニタリング計画の改訂作業等を行っています。
小笠原諸島では、森林生態系修復作業として、外来植物駆除作業や在来種の植栽、その後の環境影響モニタリング等の事業を継続的に実施しています。 | ||
海岸林に侵入する外来種(モクマオウ)の拡大 により、本来成立している在来植生が被圧され ている。 | 外来植物駆除後で明るくなった場所には在来 樹木を植栽し、早期の植生回復を目指す。 |
屋久島では、世界自然遺産地域の森林生態系を適切に把握し保全するため、海岸部から亜高山帯に至るまでの植生垂直分布調査やヤクシカによる植生影響調査、高層湿原の保全に係る調査・検討等を継続的に実施しています。 | ||
国割岳の西側では、典型的な植生垂直分布が 見られるほか、絶滅危惧種ヤクタネゴヨウの 重要な生育地となっている。 | 高層湿原(写真:花之江河)ではヤクシカの 採食・踏圧や登山道等の浸食地からの流入堆 積土砂等により、湿原植生の衰退や乾燥化が 懸念されている。 |
原生的な森林生態系の保護、動植物の保護、遺伝資源の保存等を目的に設定された保護林や緑の回廊のモニタリング調査・現状評価を実施し、保全・管理、森林生態系保護地域等の見直しなどの提案を行っています。 | ||
保護林の現地検討状況 | 動物のモニタリング調査例 (猛禽類の採餌痕跡) |
希少猛禽類等、希少動植物の保護・保全
わが国で希少動植物に指定されている種の多くは、森林を生息の場としており、種によってさまざまな森林環境を利用しています。特に、クマタカやイヌワシ等の希少猛禽類は生態系の頂点に立つ動物であり、これらを保護・保全することによって他の多くの種も守ることができます。 * 私たちは希少動植物の生息・生育状況やその生活に必要となる森林環境を調査し、望ましい森林管理方法等、希少動植物の保護・保全にかかわる各種調査・提案を行っています。 | オガサワラカワラヒワ |
アツモリソウ | クマタカ | アマミノクロウサギ |
放置二次林(旧薪炭林)や人工林の取り扱い
かつて薪炭林等に利用されていた広葉樹二次林は、利用されず森林整備が停滞し林地被害の発生リスクが高まっています。 また、人工林についても、複層林化や天然林への誘導が期待される森林が増加傾向にあります。このような森林を対象に、現地調査を踏まえた森林の取り扱いや森林の施業方法を提案します。 | 実生の発生状況調査 | シードトラップを設置して 種子を捕捉 |
病虫獣害による森林被害の対策・防除
近年、ニホンジカによる森林被害が全国的に急増しているほか、カシノナガキクイムシによるナラ枯れ被害地域も拡大してきています。これらの問題を重視し、その情報収集・各種調査を通じて、被害軽減に向けての対策・防除について取り組みを行っています。 | 発信器を装着してシカの行動圏を把握する |
ニホンジカの被害対策に向けて、生息密度、被害状況、捕獲手法等に関する調査、分析を行っています。 | 糞粒調査状況 | ダケカンバの枝葉が食べられてできたブラウジング ライン |
ナラ枯れとは、カシノナガキクイムシという甲虫が媒介したナラ菌によりナラ類等の樹木が集団的に枯損する森の伝染病です。ナラ枯れ被害の総合的防除技術の普及を目指し、情報収集、防除マニュアルの作成を進めています。 | ナラ枯れ被害状況 | カシノナガキクイムシの穿入穴から出たフラス (食べかす) |