第1回(10月7日)「天然更新や天然林施業はどこまで可能なのか」
講師:田内 裕之 氏 (森林総合研究所 森林植生研究領域長)
◆セミナーの課題
日本全国で皆伐後の再造林放棄が広がっている。それらの多くは「天然更新」により再造林がなされているということになっている。しかし、本当に「森林」の更新は成功しているのだろうか。そこで、森林・林業の「持続性」の根幹に関わる問題として、天然更新や天然林施業の問題を第1 回目のセミナーで取り上げることにした。
◆セミナーでの議論の整理
(1)天然更新(広葉樹の侵入)の条件
まず、天然更新が行われるための生態学的な条件として、「林床に次代を担う個体群があるか」と「林外からの移入が期待できるか」の2 点があることが示された。続いて、最新の研究結果から、次の3 点を指摘した。①人工林の間伐は、林床の下層植生の種数を増加させるが、高木性樹種は必ずしも多くない。②人工林内の埋土種子数は非常に少なく、特に高木性樹種の密度が低い。③伐採後の風散布等による林外からの移入は、母樹の距離と関係がある。以上のことから、目的を持って森林を育成するには、適切な森林施業が不可欠であり、「日本では確かに伐採後に何か樹木が生えてくるが、『何とかなる』と放っておくことは、経営や管理の点で無責任」とした。
(2)強度間伐での針広混交林化は可能か
委員から、近年森林環境税の使途の一つとして広がりつつある林業生産面での条件不利林分で、強度間伐後に広葉樹を侵入させ針広混交林化を図るという施策について、検証が必要なのではないかという問題提起がなされた。これについて、田内氏は上記の「天然更新(広葉樹の侵入)の条件」を満たしていなければ、「何とかなる」との見込みで強度間伐を行っても、高木性の樹種は侵入しないという事実を指摘した。
(3)里山二次林はどのように維持すればよいのか
里山二次林について、萌芽更新が繰り返された林分では樹種構成が単純化する。カシ等の遷移後期の母樹からの種子散布が期待できる林分とそうでない林分では、区別して考える必要があるという指摘があった。また、コジイ等の遷移初期の樹種が寿命を迎えてきており、腐れ等が入ってきているということであった。なお、奥山の天然林の取扱いについては、まず「生産」か「環境」かの区分を科学的にしっかりと行うことの必要性が議論された。
(4)まとめ
今回のセミナーで、天然更新、特に広葉樹侵入の生態学的メカニズムについては森林のタイプごとに一定程度整理されたと言える一方で、技術的なことがほとんど議論されずに天然更新や天然林施業が言われている現実が浮き彫りになった。また、皆伐後の「天然更新」については、更新完了基準が作られてきているが、実際に更新の確認を行う市町村職員の多くは専門知識が乏しく、広葉樹の同定が難しい等の問題も指摘された。
(文責:相川)