第16回セミナー
大型加工工場は国際競争力を持ち得たか。中小加工工場はどのように対応すべきか
西村勝美 氏(木構造振興株式会社専務取締役)
◆セミナーの課題
2006 年度から始まった新生産システム等の政策の後押しもあり,国産材製材工場の規模拡大が進んでいるが,その結果として,国際的な競争力を獲得したと評価できるのだろうか。また,数多く存在している中小製材工場の生き残る道はどこにあるのであろうか。
◆セミナーでの議論の整理
(1) 日本の大型工場と欧米の対日輸出工場の製材システム比較
平成20 年度の実績を見ると,上位20 社の国産材製材の工場は,年間の原木消費量が3.6 万〜19.9 万m3で,規模は拡大傾向にある。他方,日本に向けて輸出を行っているような欧米の製材工場は,はるかに規模が大きく,年間の原木消費量は20 万〜 40 万m3 である。そのため,製材コストは日本の大型工場よりもかなり安い。製材思想も異なり,チップキャンターで丸太を高速で加工し,後工程で仕上げを行っていくというシステムになっている。
このように,欧米の製材工場の高い競争力の背景には,原木の安定供給能力がある。なお,現在の日本の大規模工場は,素材生産業者に対して,市場を介すか,もしくは直接に資金提供し立木買いを行わせ,素材を調達しているとのことである。
(2) 今後の製材需要の変化への対応
外材を代替し,国産材の需要を拡大する戦略として,西村氏は以下の点を挙げた。まずは,輸入ラミナの集成材の管柱を,国産材で代替する方策である。そのためには,高品質(ヤング・乾燥),高精度で,集成材並みの乾燥材を供給することが必要である。
また,羽柄材は,これまでロシア材の原木を用いて加工されていたため,ここを国産材で代替していくことは実現可能性が高い。ただし,間柱等は,壁板を打ち付ける際に,節があることが欠点となるため,実は原木の質が問われる製品となっている。他方,梁・桁を国産材で置き換えていくには,現在の資源状況と乾燥技術の発展速度を考えると,向こう5〜10 年程度かかるのではないかと,西村氏は指摘した。
(3) 長伐期化に伴う大径材の利用について
本委員会でも度々議論になってきた長伐期化に伴う大径材の活用について,西村氏は以下のように解説している。
節を避けるためには,太くして使うのが有利であるが,樹齢が上がっても心材には未成熟部分が残る。そこで,径級が42cm 以上になれば芯がかりで,48cm以上になれば芯去りで使えるようになる。ちなみに,欧米の製材工場は,日本よりも大径材を利用しており,末口の直径は北米で40〜52cm,北欧でも34〜48cm程度であると言う。西村氏によれば,この程度の原木の大きさが最も取り扱いの効率がよいとのことである。
(4) 中小工場の生き残り策
中小の製材工場にとっても,厳しい品質が求められることには変わりはない。しかし,資本力が求められる乾燥設備等の導入は,簡単ではない。そこで,西村氏は,栃木県のトーセンをモデルとして,製材工場のラインを簡素化することでコストを下げ,母船となる 工場が仕上げ・品質管理を行うという地域のネットワーク構築・連携の必要性を主張している。ただし,このビジネスモデルについては,具体的なデータを整理し,検証していく作業が必要であると思われる。
(文責:相川高信)