第20回セミナー 森林・林業の普及指導は有効に機能しているか
講師:鋸谷 茂 氏(フォレストアメニティ研究所副所長)
◆セミナーの課題
林業技術を現場に定着・改善させるために、林業普及指導員制度があり、全国に約1,500 名の有資格者が配置されている。普及指導制度も現代的ニーズに応えることができているのだろうか。
◆セミナーでの議論の整理
(1)これまでの普及活動
冒頭、鋸谷氏は普及活動の歴史を簡単に振り返り、現在の問題点を指摘した。
昭和30 〜 40 年代は人工林造成のための普及活動だったが、昭和50 年代からは優良材生産のための普及が行われ、有名林業地の事例を参考に、技術普及が行われてきた。ただし、地域性の問題もあり、上手く行かなかった地域も多かった。
昭和60 年代は、間伐についての技術の理論構築が十分ではなかったこともあり、人工林整備に対する技術普及は停滞気味となった。他方、環境問題等との関連から、一般市民の森林への関心が高まり、それらに対する普及活動が盛んになった。
数年前からは、間伐材の搬出技術の普及が行われるようになったが、搬出技術の理論構築が依然として不十分であることに加え、間伐後林分の長伐期化に向けた技術的指針を欠いているという問題があると言う。
(2)普及活動の問題点(数値基準と人材育成システムの欠如)
「補助金の要件を満たしただけ」という、検討が不十分で、場合によってはむしろ不適切とも思われる間伐現場が少なくないという。鋸谷氏は、数値基準がないことが、林業普及における最大の問題点であると指摘する。そこで、鋸谷氏は、樹冠長率など間伐の判断に必要な数字をレーダーチャートで表し、間伐後の姿をシミュレーションできるツールの開発などを行っているところである。
更に深刻なことは、大学等における林学(森林科学)教育や、県庁就職後の研修システムが不十分なために、適切な普及指導を行うことができる人材育成が困難な状況にあるということだ。加えて、林業普及員の資格試験制度も、専門分野で受験する仕組みになっていながら、実際はオールマイティーに活動することを求められているなど、現実とマッチしていない状況がある。
(3)これからの林業普及指導制度は、どうあるべきか
他方、普及員が広める技術は何なのかを今一度整理する必要があるのではないか、という意見が多く出た。例えば、篤林家や先進的事業体が行うような最先端の技術の普及なのか、それとも必要最低限の森林管理を行うための技術普及なのかにより、求められる普及員像は異なってくる。限られた予算の中では、普及員のミッションを改めて考え直し、普及対象やテーマの選択と集中を行うことも必要かもしれないという意見もあった。
また、普及員も補助金業務等を担当しており、実質的には一般職員と変わらない場合も多いことから、職員全員が同じような業務をしてもいいのではないか、との指摘もあった。
このように普及員制度の「あるべき姿」をもう一度考え直すべきである、という意見は多かった。それと関連して、伝えるべき技術の理論化・数字化を行う試験研究機関はどこなのか、普及員と森林組合の違い・関係はどうあるべきか、普及員が普及を行う対象はどんな人々なのか、など本質的な議論に基づいて、ビジョンを示していく必要があるだろう。
(文責:相川高信)