第21回セミナー 大学の森林・林業教育は何を目指しているか
講師:枚田邦弘 氏(鹿児島大学農学部森林政策学研究室准教授)
◆セミナーの課題
森林・林業を取り巻く環境が大きく変化する中にあっては、それに対応できる人材の確保が極めて重要である。大学の森林・林業教育はどのように対応しようとしているのだろうか。
◆セミナーでの議論の整理
(1)日本の林学教育の現状と課題
枚田氏によれば、大学等で受ける教育コースと、卒業後に想定される技術者には以下のような対応が想定されている。
一つ目は公務員林業技術者で、大学農学部森林関係コースや高校・農林高校森林関係コースを卒業することが想定されている。二つ目が林業事業体管理技術者で、高校・農林高校森林関係コースや農林大学校、一部大学の農学部森林関係コースの卒業者が主体で、加えて作業現場統括や作業技術者から昇格する者もある。これに加えて、生産・作業現場統括や実行技術者と呼ばれる方々がいるが、都道府県労働力確保支援センターや都道府県普及指導機関での必要最低限の研修を受けるに留まっている。
ところが実際は、大学の農学部森林関係コースの卒業者の就職状況は、公務員の募集人数が減少しているため、公務員や団体職員になるのは2 割程度であると言う。他方、民間企業への就職が増加しているが、専門外の就職がほとんどで、川下関連の企業が含まれるのみだと言う。
教育内容については、かつての大学教育では、講義内容は各教員の裁量に任され、どういう人材を育てるかという共通の教育目標が明らかではない場合が多かった。しかし、近年はJABEE 取得校を中心に、教育目標を明確化するという動きが増えてきている。
(2)鹿児島大学の社会人教育の試み
こうした状況下で、鹿児島大学では、地域でのニーズに応え、技術者養成のために、独自の取組を開始した。背景には、社会貢献の意味あいから、文科省が大学院の社会人教育を推進しているということもある。
一つ目は、森林施業プランナー的位置づけの「森番人」育成(文科省:再チャレンジ支援プログラム)である。土日を中心とした月二回程度のプログラムを提供し、3 年間で、森林組合職員や、林業会社社員、木材加工企業社員等を延べ10 名が修了している。
二つ目は、素材生産技術者養成のための(文科省:学び直しニーズ対応教育推進プログラム)である。これは、この様な技術者のために、近年林業生産現場でも必要とされる高度な技術と経営判断の基礎知識を提供することを目的としている。2007 年から始まった、年二回のコースで、約50 人が修了している。
(3)今後の課題と解決の方向性
人材育成を考える上で最大の課題は、「日本の森林・林業で必要な人材がこうだから大学教育がこうあるべき、という議論が十分に行われていない」ということである。
ただし、卒業生の8 割が専門外の就職をするという現状では、「教育目標を明確化しない」という選択は、理解できる。したがって、森林・林業の各現場から「このような人材を欲している」というメッセージを発信する(具体的に就職先を創る)ことが最も大切である。この場合、森林を公益的な観点から経営する公的セクターと、効率的な林業活動に主眼を置くビジネスセクターでは、求める人材が異なってもよい。いずれにせよ、当研究会も含めてそのような情報発信や対話を、積極的に行っていく必要があるだろう。
(文責:相川高信)