第19回セミナー 望ましい林業労働者は確保されているか
講師:水野雅夫氏(Forester's NPO Woodsman Workshop 代表理事)
◆セミナーの課題
林業の現場では、最終的には「人」が作業を行う。このような林業労働者は現在、世代交代しつつあり、かつIターン者等の新規参入を受け、様変わりしている。このような状況の中でどのように人材を育成し、確保していけばよいのだろうか。
◆セミナーでの議論の整理
(1)変化する林業労働者
林業労働者の数は年々減少しており、現在5万人を切る程度だと言われている。しかも、高齢者率は上がっている。
その一方で、緑の雇用などの支援もあって、新たな人材の参入も増え、人員構成の変化が着実に生じている。Iターン者も増加しているが、林業に強い憧れを持つ人から、田舎暮らしが主目的の人など、林業労働者像が多様化してきている。また、林業技術者が目指す目標像が明らかになっていないという問題もある。
このような変化・多様化に、受け入れる側がついて行っていないのが現実である。現状のようなOJTを中心とした育成方法だと、経験する作業のほとんどが間伐になり、幅広い技術を身につけることができず、林業に関する技術の全体像を理解することが難しい。また、森林組合等の林業事業体や地域社会が、「よそ者」を受け入れる覚悟と準備がどこまでできているかといった問題も無視できない。
逆に、林業労働者側に欠けている点として水野氏が指摘したのが、「コスト感覚」「現場感覚」「ホスピタリティーと倫理感」「熱意と客観性」であった。
研究会としては、これらの表裏一体の問題を受け止め、真摯に改善策を検討していく必要があるだろう。
(2)指導者がいない、教育システムがない
林業の現場には、まだ「名人」と呼べるような技術者が現役で活躍しているが、彼ら「名選手」は必ずしも「名コーチ」ではない。従来のような「見て覚えろ」式は、子どもの頃からの日常生活の中で、刃物の使い方や身体のさばき方などを覚えてきたような、一世代前の中山間地域出身者を前提とした教育方法と言える。しかし、都市で生まれ育った者が多い現代人には、通用しない教育方法である。
そこで、水野氏は指導者を育てる取組に力を入れており、「できるようにすること」の難しさを理解してもらった上で、指導のポイントを教えている。実際に、熊本県、和歌山県、岩手県などで行政等と連携しながら、研修が始まっている。また、水野氏自身も「寺子屋」と称するNPO独自の事業をスタートさせている。
このような研修が必要とされる背景には、現場技術者のための体系的な教育システムが存在しないという本質的な問題がある。林業高校や農林大学校も実際は、現場の技術者を育成していない。委員やアドバイザーからも、そのような本質的な問題を指摘する意見が多く出た。また、水野氏自身も現在の「寺子屋」プロジェクトを、将来的には「学校」に発展させていく構想を持っている。林業労働者の数を単に「確保」するのではなく、プロフェッショナルとして尊重しながら育成していくという基本的な姿勢が、限られた人的資源の中で、日本全体の森林を管理・経営するという大目的の実現からも不可欠である。
(3)現場の声をもっと
筆者の個人的な感想であるが、水野氏の講演内容には、現場での実体験に基づく傾聴すべき内容が多く含まれていたと思う。本セミナーでは、森林を取り扱う様々な技術の問題について繰り返し取り上げてきたが、現場の技術者の声にもっと耳を傾けることで、より本質的で現実性を持った技術論を展開することができると思われる。
(文責:相川高信)