第8回セミナー 望ましい森林施業を達成するための森林計画等はいかにあるべきか
講師:白石則彦氏(東京大学大学院農学生命科学研究科)
講師:原田敏之氏(穂の国森づくりの会)
2月12日(木)の第8回セミナーでは、白石則彦氏(東京大学大学院農学生命科学研究科)と原田敏之氏(穂の国森づくりの会)のお二方を講師にお迎えし、「望ましい森林施業を達成するための森林計画等はいかにあるべきか」というテーマで基調講演をいただき、その後、参加者の間でディスカッションを行いました。
基調講演及びディスカッションの要旨は次のとおりです。
(1) 白石氏講演
1.はじめに
森林計画と森林施業の関係は、小は林業経営・森林管理現場の実務レベルから、大は国の政策レベルに至るまで、さまざまあり得る。ここでは後者に焦点を当て、戦後日本の森林政策の根幹をなしてきた森林計画制度及び基本計画によって政策的に推奨されてきた森林施業の変遷を辿りながら、課題を挙げることにする。
2.森林計画制度の展開
我が国の森林計画制度は、戦中戦後の乱伐の影響で荒廃していた森林を復旧するため、昭和26年に創設された。当初は伐採許可制など規制色の強いものであった。昭和30年代前半に荒廃地の復旧をほぼ終えた後も、成熟した森林資源の不足と旺盛な木材需要のもとで大面積の人工造林は続き、林業振興を通した森林整備へと次第に軸足を移していった。この頃から約20年間は資源の量的拡大が指向され、「拡大造林」次代が暫く続いた。しかし昭和40年代半ばになると外材輸入量が増大し、木材自給率や林業の採算性が低下し始めた。林家の計画的木材生産を支援するため、森林施業計画制度の「属人」(昭和43年)や「団共」(同49年)が導入された。木材価格が昭和55年をピークに下降に転じると、採算性の低下はさらに進み、伐採・造林面積は急激に減少し、拡大造林時代は終わりを告げた。その後の森林政策の中心は、戦後に造林されて十分に手入れをされていない人工林をいかに整備するかに移っていった。昭和58年には森林法が改正され、市町村森林整備計画が導入されるとともに、計画に間伐や保育に関する事項が独立して加えられ、重視されることになった。これを機に、森林整備の主体は地域(市町村)に移されていく。平成13年には森林・林業基本法が制定され、森林施業計画は団地的まとまりのある森林に一本化され、また管理できない所有者に代わって管理を行う事業体の参入が認められた。
3.森林機能の変遷
森林計画に初めて森林機能が登場するのは、昭和48年の基本計画まで遡る。当初は森林の状態(林形や林齢)で全体的な整備水準を評価していたが、次第に機能の種類が増えるとともに場所付けがなされ、林地のポテンシャルを評価する方向へと進んでいった。昭和62年の基本計画においては、木材生産・水源かん養・山地災害防止・生活環境保全・保健文化の5機能について整備すべき箇所・面積と目指す森林の状態が示された。そして平成9年の基本計画では、優先すべき3機能類型(水土保全、共生、循環利用)に森林を区分し、それぞれ機能に応じた施業を推進することとなった。この間、木材生産を優先する森林面積は一貫して減少し、最新の基本計画(平成18年)では間伐・抜き伐りにより人工林を多様な森林に誘導することが推奨されている。
4.森林計画の課題
我が国の森林・林業の政策は昭和50年代半ば頃までは、林業を通じて森林整備を図ってきたと言える。しかしその後、林業の採算性は低下し、森林所有者の林業離れも進み、林業を通じて予定調和的に森林整備を図ることが困難になってきた。機能類型に基づくゾーニングが導入され、公益的機能を優先させる森林では林業とは別建ての施策が取り入れられつつある。戦後から最近までの森林政策を大局的に見れば、森林を機能に応じて区分し、また責任を持って森林管理を担える事業体に地域ごとに管理を集めていくという方向性が明らかであるが、未だ所有者への浸透は不十分で、強制力もなく、実現の目途は立っていない。
(講師講演要旨から)
(2) 原田氏講演
森林施業計画制度は平成15年度にスタートし、今年度は5年を経過しての計画見直しを終え、いわば第2期と言える段階に至っています。しかしながら、手探りでスタートした「第1期」と比べ「第2期」はステップアップするどころか、むしろ後退している観もあると考えます。懸念される点について、市町村や森林組合など直接に担当している現場の状況などから検討すべき部分の一部を紹介したいと思います。
本制度の大きな柱は「市町村森林整備計画」と所有者による「森林施業計画」の2つがあり、相互に関連し合う形になっていますが、それぞれに問題があり、検討を要する点がありますので、具体例を挙げながらご紹介します。
(講師講演要旨から)
ディスカッション
基調講演の後、参加者の間でディスカッションが行われましたが、次のような点が議論されました。
- 水土保全林と循環利用林に対する助成は異なる考え方に基づいて実施すべきで、メリハリがなければならない。
- 計画量の算出の基礎や考え方が示されていないため、実効性を持ちえていない。
- 市町村森林整備計画はトップダウンの政策とボトムアップの森林施業計画の接点にあり、重要な位置づけにある。しかし、市町村には専門家が不在で、人事システムも適当とはいえない。専門的な別組織が必要かもしれない。コンサルの活用も考えられる。
- 計画といいつつ、施業結果を変更計画として後付で記入し、助成を受けるような例もある。森林の現況や林業経営上の判断で施業を実施しているとは言い難い。
- 林業経営の意欲がない所有者に助成しても効果は期待できず、納税者に対する説明責任も果たせない。意欲のある所有者のインセンティブになるような制度が必要である。現在は、意欲のある森林所有者に不利になるようなケースも見られる。
- 森林所有者の立場から言えば、もっと血の通った計画制度にして欲しい。
- 非関税障壁などにより国産材の供給を計画的に保障するような政策が必要である。
- 100%の補助率は森林所有者が経営努力を怠る原因になる。団地化などの効率化も進まない一因になり、競争力が益々下がることにもつながる。
- 林業に対しては産業の必要性から補助しているのではなく、森林の公益性を重視して補助していると考えられる。そうであるなら、例えば禁伐や非皆伐にするなど、公益的機能を果たす森林や施業に対して補助すべきである。材価が上がったから伐ってしまい、もう一度補助金を欲しいと言っても納税者は納得できない。
- 森林の機能区分は、所有者自身は知っていない。機能区分により施業を制限すると問題になる可能性がある。
- モントリオールプロセスと森林計画の関係が薄弱である。
- 森林環境税は、施業(ハード)だけに使うのではなく、専門的プランナー(ソフト)にも使えると画期的である。
- 森林環境税は県民、市民の税金であり、成果が求められるとともに、成果をモニタリングしていくことで、説明責任を果たさなければならない。モニタリングのための予算も確保しておくことが必要である。