第14回セミナー 住宅用需要に今後どのように対応すべきか
飯島泰男氏 (秋田県立大学木材高度加工研究所教授)
◆セミナーの課題
現在の日本の木材需要は,紙・パルプを除く製材と合板については,そのほとんどを住宅に依存している。したがって,住宅用の木材利用が,将来的にどのようになるのかを見通すことは非常に重要である。
◆セミナーでの議論の整理
(1) 住宅用需要の将来見通し
新設住宅着工数の予測として,飯島氏は,2000 年にニッセイ基礎研究所が発表した「住宅需要の長期予測」における推計結果を紹介した。それによると,すでに始まっている人口の減少と,将来的に予測されている世帯数の減少の影響から,新設住宅着工数は1990 年代後半から一貫して減少していくと予想されている。2020 年には約80 万戸,2030 年には約56 万戸になるという。
(2) 新規需要開拓の可能性
このようにして見ると,建築関連法規の厳格化とは関係なく,住宅ストックの充実と人口減少から,新設住宅着工数が減少するのは確実に予測できる未来である。そこで,新規の需要を開拓していかなければ,現在の人工林資源を有効に活用していくことができなくなる。飯島氏は,以下の3 つの方向性を紹介した。
一つ目は,住宅需要の中で外材が使われている部材について,国産材で代替していくことである。林野庁のデータを元に,飯島氏が推計した資料によると,梁(はり)・桁(たけ)や,羽柄・下地材などに大きな代替量を見込むことができる。また,部材を太く厚く使うことで,木材使用量を増やし,耐震性や耐火性,耐久性・長寿命,断熱性の向上などに貢献することも期待できる。 二つ目は,リノベーションニーズであり,特に耐震改修は,まだ十分に進んでいない地域もあることから,確実なニーズを見込むことができるだろう。
最後は,鉄筋やコンクリートなどを木材で代替していく方策であり,これによりマンションや事務所などの大型建築での使用を増加させることができる。
(3) 木材需要を開拓していくために
それでは,木材需要を開拓していくために必要なこととして考えられることは,何だろうか。
飯島氏が指摘したのは,総合的な研究開発の必要性である。木材利用建築物の耐震性・耐火性や,室内環境の良さなどについて,これまでも研究例がないわけではないが,手法の不一致や成果が整理されていないことなどの問題があると言う。建築業界がリードする研究は,必ずしも国産材利用を目的としていないことから,ここに森林総研や県の試験場の研究者が参画することが望ましい。
また,ポスト京都議定書の枠組みでは,住宅を含めた長期の木材利用による炭素固定量が何らかの形でカウントされるという議論が行われている。このことが木材利用のインセンティブになる可能性があることから,LCA 的手法で環境価値を定量化する手法を標準化していく取組を,建築業界とともに行っていかなければならいだろう。
最後に,飯島氏らが行った比較的大規模の工務店に対するアンケートにおいて,今後の生き残りに必要なことが「顧客との対話」だったことからも分かるように,需要減少時代にあっては,木材産業全体で,顧客を今まで以上に重視した戦略を策定・採用できるかがポイントになるだろう。
(文責:相川高信)