セミナー報告
No.1天然更新や天然林施業はどこまで可能なのか
No.2長伐期林は伐期をのばすだけで作りうるのか
No.3地球温暖化は森林整備にどのような影響を与えるか
No.4森林情報のIT化は何を可能にするか
No.5森林情報は必要な事項が適確に把握されているのか
No.6森林整備目標は森林所有者等に徹底しうるものとなっているか
No.7造林コストはどこまで下げうるか
No.8望ましい森林施業を達成するための森林計画等はいかにあるべきか
No.9団地化、作業の集約化はどこまで進みうるか
No.10路網整備を加速化させるためには何をすべきか
No.11我が国に合った林業機械のあり方とは何か
No.12素材生産の生産性はどこまで向上させられるか
No.13国産材の供給可能量はどのように見通せるか
No.14住宅用需要に今後どのように対応すべきか
No.15国産材の製紙用需要はどこまで拡大できるか
No.16大型加工工場は国際競争力を持ち得たか。中小加工工場はどのように対応すべきか
No.17森林、林業、木材利用の改革についての意見
No.18今後の森林組合はいかにあるべきか
No.19望ましい林業労働者は確保されているか
No.20森林・林業の普及指導は有効に機能しているか
No.21大学の森林・林業教育は何を目指しているか
No.22林業高校は森林・林業技術者の育成を担いうるのか

PDFダウンロード資料
♦ 30の提言(素案)
♦ 30の提言(素案)に 対するご意見等
♦ 30の提言(最終版)
♦ シンポジウム議事録
♦ シンポジウム会場か らのご意見等

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セミナー報告

第14回セミナー 住宅用需要に今後どのように対応すべきか
飯島泰男氏 (秋田県立大学木材高度加工研究所教授)

◆セミナーの課題

 現在の日本の木材需要は,紙・パルプを除く製材と合板については,そのほとんどを住宅に依存している。したがって,住宅用の木材利用が,将来的にどのようになるのかを見通すことは非常に重要である。

◆セミナーでの議論の整理

(1) 住宅用需要の将来見通し
 新設住宅着工数の予測として,飯島氏は,2000 年にニッセイ基礎研究所が発表した「住宅需要の長期予測」における推計結果を紹介した。それによると,すでに始まっている人口の減少と,将来的に予測されている世帯数の減少の影響から,新設住宅着工数は1990 年代後半から一貫して減少していくと予想されている。2020 年には約80 万戸,2030 年には約56 万戸になるという。

(2) 新規需要開拓の可能性
 このようにして見ると,建築関連法規の厳格化とは関係なく,住宅ストックの充実と人口減少から,新設住宅着工数が減少するのは確実に予測できる未来である。そこで,新規の需要を開拓していかなければ,現在の人工林資源を有効に活用していくことができなくなる。飯島氏は,以下の3 つの方向性を紹介した。
 一つ目は,住宅需要の中で外材が使われている部材について,国産材で代替していくことである。林野庁のデータを元に,飯島氏が推計した資料によると,梁(はり)・桁(たけ)や,羽柄・下地材などに大きな代替量を見込むことができる。また,部材を太く厚く使うことで,木材使用量を増やし,耐震性や耐火性,耐久性・長寿命,断熱性の向上などに貢献することも期待できる。  二つ目は,リノベーションニーズであり,特に耐震改修は,まだ十分に進んでいない地域もあることから,確実なニーズを見込むことができるだろう。
 最後は,鉄筋やコンクリートなどを木材で代替していく方策であり,これによりマンションや事務所などの大型建築での使用を増加させることができる。

(3) 木材需要を開拓していくために
 それでは,木材需要を開拓していくために必要なこととして考えられることは,何だろうか。
 飯島氏が指摘したのは,総合的な研究開発の必要性である。木材利用建築物の耐震性・耐火性や,室内環境の良さなどについて,これまでも研究例がないわけではないが,手法の不一致や成果が整理されていないことなどの問題があると言う。建築業界がリードする研究は,必ずしも国産材利用を目的としていないことから,ここに森林総研や県の試験場の研究者が参画することが望ましい。
 また,ポスト京都議定書の枠組みでは,住宅を含めた長期の木材利用による炭素固定量が何らかの形でカウントされるという議論が行われている。このことが木材利用のインセンティブになる可能性があることから,LCA 的手法で環境価値を定量化する手法を標準化していく取組を,建築業界とともに行っていかなければならいだろう。
 最後に,飯島氏らが行った比較的大規模の工務店に対するアンケートにおいて,今後の生き残りに必要なことが「顧客との対話」だったことからも分かるように,需要減少時代にあっては,木材産業全体で,顧客を今まで以上に重視した戦略を策定・採用できるかがポイントになるだろう。

(文責:相川高信)

議事概要