第13回セミナー 国産材の供給可能量はどのように見通せるか
岡 裕泰 氏 (森林総合研究所 林業システム研究室長)
◆セミナーの課題
成熟した人工林の利用の時代に突入したが,この資源を持続的に活用するためには長期的な見通しが不可欠である。国産材の供給可能量は,どのように見通すことができるのだろうか。
◆セミナーでの議論の整理
(1) 方法論の検討
国産材の供給可能量の見通しについて、以下の3つのアプローチを考えることができる。 一つ目は、人工林が100%木材生産可能であるとしての単純計算である。しかし、これは現実的ではない。二つ目は、森林所有者の将来の伐採・造林に関する意向調査からのアプローチである。しかし、回答は外部環境を分析しての判断ではなく、自分の所有森林の経営状況を考えただけだと思われ、日本全体の推計には心もとない。
そこで、岡氏は以下のような「バックキャスティング的」手法を考案した。現在の人工林を、①伐採・再造林対象、②伐採・天然更新対象、③非伐採対象の3区分に分けて、「それぞれの面積」と、新たな林種別面積配分が実現するまでの「転換期間」を想定して、人工林の1年あたりの主伐面積と丸太供給量を試算するものである。議論はこのアプローチを中心に行われた。
(2) バックキャスティング的試算の結果
150年生までにすべて伐採し、年皆伐面積を一定として計算すると、スギ・ヒノキの合計(カラマツ等は含まない)で平均2,300万m3/年、200年生までの場合は平均1,800万m3/年の丸太材積が生産されることになる。
ところが、輸出や外材の代替、現在の用途以外の需要拡大を行わなければ、人口減少により製材品需要は減少する可能性が高い。例えば、一人当たりの製材消費量を仮に一定だとすれば、2050年には2,270万m3/年、2100年は1,520万m3/年(それぞれ丸太換算)に減少することが予想される(2007年は3,046万m3/年)。したがって、需要量の多い現在の早い時期に伐採量を相当量増加させなければ、転換期間内に国内需要の範囲で利用しきれないことになってしまう。
モデルの試算結果から伐期は上限・下限の幅を100年以上に分散させる必要があることが指摘できることと、樹冠長率が低下し崩壊が危険な人工林が増えていることも考えると、現場では、林分ごとの森林の状態を見極めて、間伐を行い長伐期に誘導する林分と、早期に主伐を行う林分とを適切に判断する必要がある。
(3) 今後の見通しの精度向上のために
今後は林齢の上昇により、大径化が予想される。しかし、その程度は、政策の動向や需要サイドの価格付けなどにも左右されるため、現段階では予測ができない。森林資源モニタリング調査や、森林所有者の意向調査データなどが充実し、かつまた研究者が利用可能になれば、見通しの信頼性を飛躍的に向上させることができる、と岡氏は述べた。
また、現在林野庁が策定する森林林業基本計画は、向こう20年程度の見通しでしかないため、岡氏が示したような100〜200年単位の超長期のデータは考慮されていない。しかし、今回のセミナーでも明らかになったように、超長期のスパンで考えることで見えてくるものは大きい。
また、今回のセミナーで提示されたシナリオは2種類だったが、各種の設定を変えることで、様々なシナリオを描くことができる。そのことでより問題点がはっきりするはずであり、このようなシナリオも念頭に、日本全体の森林・林業・林産業のあり方を考えていく必要があるだろう。
(文責:相川高信)