第12回セミナー 素材生産の生産性はどこまで向上させられるか
講師:岡 勝 氏 (森林総合研究所 生産システム研究室長)
◆セミナーの課題
材価が下がり,賃金が上昇したことが日本林業衰退の構造的な原因である。したがって,日本林業再生のために労働生産性の向上は急務と言える。素材生産の生産性の向上はどこまで期待できるのだろうか。
◆セミナーでの議論の整理
(1) 素材生産の生産性を向上させる原則は何か
岡氏は、「今後の生産性の向上の可能性は、分析・検討を進めている段階であり、結論を出すには至らない」と断った上で、考えうる生産性向上のためのポイントとして、以下の点を挙げた。加えて、路網整備の加速化が不可欠であるとも指摘した。
- 各工程の作業時間を短縮する
- 工程ごとの作業重複時間を出来るだけ増やす
- 工程間の作業待ち時間を少なくする
- ボトルネックの解消(ネックとなる工程の作業時間短縮をまず行う)
- 工程の生産性の不均衡を是正する
それに対して委員からは、日本の作業システムは欧米に比べて工程数が多く、複雑なものになっており、「工程数をなるべく少なくする」という原則が強調されるべきとの意見があった。また、現場ではこのような原理原則が必ずしも整理されていないことから、研究者や行政が中心となり、情報を整理し発信していくことの必要性も指摘された。
(2) 労働生産性の目標をどのように設定するのか
それでは、日本林業の労働生産性はどこまで向上させることができるのだろうか。「素材生産費等調査報告書」によれば、現状の生産性は主伐で5.0m3/人・日、間伐で3.1m3/人・日となっている(2006年、総平均)。岡氏は、将来的には「現在のシステムを用いた場合、種々の条件やオペレータの習熟度、改善と工夫にもよるが、8〜12m3/人・日のレベルまでの生産性向上は期待される」と述べた。ちなみに森林総研が発表した研究開発ロードマップ「2050年の森」(注1)では、2020年に10m3/人・日、2050年に20m3/人・日が目標とされている。
しかし、これは妥当な目標設定なのだろうか? 岡氏も紹介したスウェーデンの最新データでは、保育、間伐、主伐を含む林業全体の生産性は25m3/人・日を超えている(ただし、管理部門は含まれない)。しかも、なお野心的なことに、この生産性を2020年までに更に50%向上させることを目標として研究開発を行っているという(注2)。
日本の場合はまず、現在の賃金・材価等を前提として、採算の取れる労働生産性を目標として設定し、その実現のために総合的に政策を展開していくべきであろう。その際には、必ずしも現行の作業システムを前提とするのではなく、欧米の例も参考にしながら、ゼロベースで再考する必要もあるだろう。ただし、日本は北欧とは違い、急峻な地形が多いことから、地形ごとの作業システムの類型化が必要である。
またスウェーデンの場合、この労働生産性の統計値は、総木材生産量を総投入労働時間で除した数字で算出されており、信頼性が高い。他方、日本の「素材生産費等調査報告書」の経年データを見ると、年によって数字のばらつきが大きい上、岡氏も指摘したようにその要因を特定することが困難な調査の設計になっている。生産性向上のために行われた政策の結果を、適切な手法でモニタリングしていく仕組みも必要である。
注1) http://www.ffpri.affrc.go.jp/2050mori/menu_3/images/roadmap_3_1.pdf
注2) http://www.skogforsk.se/upload/Dokument/News/News2008-1.pdf