第15回セミナー 国産材の製紙用需要はどこまで拡大できるか
上河 潔 氏 (日本製紙連合会常務理事)
◆セミナーの課題
我が国の木材需要量に占めるパルプ・チップ用の割合は,製材用,合板用を上回って最大であり,その動向は国内の林業・木材産業に大きな影響を与える。しかし,国産材の利用は低位に留まっている。
◆セミナーでの議論の整理
(1) 紙の種類と適合する原料
一口に紙と言っても,製品の種類は多様であり,用途に応じて原材料(とその比率)は使い分けられている。新聞用紙や包装用紙,ダンボールなどは,繊維が長く耐久性を出せる針葉樹が用いられる。一方,コピー紙等の印刷用紙などは,繊維は短いが色むらの少ない広葉樹が主に使われている。
(2) 製紙原料の歴史的な変遷
ただし歴史的に見れば,日本の製紙原料は,需要というよりも資源的な制約から変遷を経てきた。戦時中までは主にエゾマツ,トドマツ等の国産針葉樹が原料として使われていたが,戦後の拡大造林期には,アカマツや広葉樹が大量に伐採されたため,積極的に用いられるようになる。この時期,業界は広葉樹からパルプを製造するため,クラフトパルプの技術を開発し,現在の主流の製法となっている。
やがて,これらの国内資源が枯渇してくると輸入材に資源を求めるようになり,円高の時代を迎えると輸入材への依存をさらに強め,海外植林を増加させてきた。海外植林が増大し,古紙利用率も一気に高まり,現在では古紙が製紙原料の6 割を占め,主要な製紙原料の一つとして用いられるようになっている。
(3) 国産材を製紙原料として使うには
針葉樹については,チップの国産比率は近年増加傾向にあり,すでに6 割程度が国産である。針葉樹チップは,輸入も含めて,製材残材由来のものが6 〜 7 割を占めているため,国産材製材の生産量が増えれば,残材も増え,製紙原料として使われる量も増加するだ
ろう。また,林地残材については,搬出等のコスト削減が必要である。
広葉樹については,国内の広葉樹二次林が使われず蓄積を増加させている。萌芽更新で行こうとすれば伐採すべき時期を迎えている。ただし,国民の里山林への思いもあり,里山林をどのように取り扱っていくかの森林区分や実行段階における適切な施業の実施が必要である。また,路網が未整備であることや伐採・造材作業の機械化が進展していないこと等の問題がある。
(4) 国産材の健全な流れを作ることが先決
このように現在の日本の製紙業界は,その資源の多くを海外に依存している。しかし,成長著しい中国をはじめとして,海外の資源は取り合いになることも予想されることから,国産材の利用を積極的に進めていくべきである,と上河氏はまとめた。
そのためには,これまで見てきたように,結局のところは,針葉樹・広葉樹ともに,経済的にも見合う持続可能な林業の再生と,それに連なる製材等の木材産業全体を活性化させていく必要があり,総合的な取組が不可欠である。
(文責:相川高信)