第9回セミナー 団地化、作業の集約化はどこまで進みうるか
講師:梶山恵司氏(富士通総研経済研究所)
2月17日(火)の第9回セミナーでは、梶山恵司氏(富士通総研)を講師にお迎えし、「団地化、作業の集約化はどこまで進みうるか」というテーマで基調講演をいただき、その後、参加者の間でディスカッションを行いました。
基調講演の要旨は次のとおりです。
基調講演
1.保育から利用へ
拡大造林開始から50年を経て、保育から利用への時代に入る。利用には、育林や皆伐とは異なる高度な理論・技術が必要とされる。経営は当然の前提である。日本林業は労働集約から知識・技術集約型産業への転換を迫られているのであり、パラダイムシフトそのものである。
これはまた、大きなチャンスでもある。林業は本来、木材産業、住宅・家具・建材、林業機械、製材機械、バイオマスエネルギー利用等、裾野が広い産業であると同時に環境的にも優れた産業である。
地域経済、地球環境問題、資源・エネルギー問題等、日本および世界が直面する課題すべてに関係しているのが林業であり、持続可能な形で木材産業集積を実現することはわれわれの責務である。
2.持続可能な森林経営を支えるシステム
欧州は、小規模所有、サラリーマン・老齢化した森林所有構造、急峻な地形(特にオーストリア)、高い賃金コスト等、日本と共通点が多いが、森林の蓄積・成長量を的確に把握し、成長の6〜8割を安定的に伐採・更新する持続可能な森林経営を実践している。 持続可能な森林経営を支える以下の基礎条件は、世界共通のはずである。これはまた、森林の多面的機能を発揮する前提でもある。
①持続可能な森林経営を担保するための木材伐採のルールや主伐後の更新の義務付け、およびその実効性を担保するための監視メカニズム。
②森林資源のモニタリングと施業体系の構築。森林の現況を的確に把握すること、科学的根拠に基づいて、地域ごと、樹種ごとの施業体系を構築することは、林業の基本である。
③小規模所有者をサポートするシステム。個人所有者が林業の担い手となりえなくなっているのは世界的傾向であり、欧州では所有者の特徴を反映したシステムを構築している。
④林業関係者間の役割分担、連携を促すシステム。具体的には、森林管理と現場との役割分担の明確化による連携を促進させることである。
⑤人材養成。森林管理の専門家、現場技術者ともに、これからは高度な能力・技術が要求される。人材養成は喫緊の課題である。
⑥生産性の高い林業機械と作業システム。地形・径級によって使う機械とそれによる生産性・コストが把握できるようになっており、木材生産の透明性が確保されている。
3.日本林業の設計図
このようにして欧州では、一定の訓練を受けていれば、誰がやっても一定の水準を確保できるよう、林業を支える堅固なシステムを構築している。林業関係者は小資本がほとんどであること、森林の多面的機能の重要性から、これは当然である。
これに対し、日本では、上記条件はみな未整備で、現場は自己流で混乱している。
いまもっとも求められることは、欧州の森林経営を参考に、日本林業の目標を設定すると同時に、現状を的確に分析し、目標に到達するための戦略を構築することである。
人材の養成、ルール整備、地域森林・路網設計、林業関係者間の連携を促す体制等、やるべきことは山積である。いまの森林の状態から時間的猶予はない。断固とした決意を持って取り組んでいかなければならない。できるかどうかではなく、やるかやらないかである。
(講師講演要旨から)