第7回セミナー 造林コストはどこまで下げうるか
講師:寺岡行雄氏 (鹿児島大学農学部)
1月20日(火)の第7回セミナーでは、寺岡 行雄 氏(鹿児島大学農学部生物環境学科)を講師にお迎えして、「造林コストはどこまで下げうるか」というテーマで基調講演をいただき、その後、参加者の間でディスカッションを行いました。
基調講演及びディスカッションの要旨は次のとおりです。
(1) 寺岡氏講演
木材価格が上がらない中、再植林と保育にかかる経費が収益を圧迫し、皆伐後再植林しない大面積の造林未済地が出現した。100ha規模は極端な例だとしても、小規模でも原因となる林業収益の構造は変わらない。その改善のためには、材価を上げる、生産費を下げる、育林コストを下げる、の3つの方策がある。このうち、育林コストを下げるための事例をご紹介し、課題をお示ししたい。
今後の造林実施では従前と前提条件が異なってくる。(1)拡大造林ではない2代目以降の再造林であるため、木本類の萌芽更新が少ない。(2)架線系全木集材、路網系機械集材を問わず、皆伐の造材方式がプロセッサを利用するため、生産と同時に末木枝条が集積するようになり、地拵えがほとんど必要ない事例がでてきている。(3)住宅様式の変化により、役物需要が減少した。再生産に当たっては、大部分が並材生産でよい。(4)集材路網の育林への活用により、育林作業の低コスト化が可能となる。
これらのことから、省力型の育林プロセスは①グラップルによる地拵え、②苗の選定(品種・系統、大苗、ポット)、③低密度植栽、④下刈り回数削減といった内容を含むものになる。いずれも完成した技術とはなっていないが、現在までの取組を報告する。
まず、地拵えをセットで行うことを前提とした皆伐・集造材作業により、末木枝条はほとんど林地に残らない。生産作業終了時にグラップルにより集積は容易で、功程は5分の1になる。次に、苗の選定では、耐陰性の高い品種は成長が良くないものの、無下刈りでも生育する。一方、成長の旺盛な品種では30年の短伐期で生産可能なものも選抜されつつある。また、大苗、ポット苗の試みが始まっている。植栽密度は1,500本〜2,000本/haでも並材生産は可能と考えられ、植栽部分のコストは半減する。さらに、下刈りについては、坪刈りや回数削減の試験が行われつつあり、30%〜50%程度が削減可能かも知れない。なお、下刈りを省略した場合、広葉樹との競合が激しいため成長に減退が見られるものの、シカ食害の多発地域では広葉樹の存在が被害防止効果の役目を果たす。坪刈りなどもほぼ同様の効果が見込まれると推察される。
以上をまとめると、まず、並材生産において無節材は必要なく、生産目標に見合った育林コストとすることが重要である。そのためには低密度植栽と省力保育の育林技術を確立し、低コストで再生産する育林体系の構築が必要である。次に、個々の省力型の育林技術は研究過程にある。ただ、個々の技術の功程(人工数)の単純な足し算とはならない。たとえば下刈り回数を減らした分だけ次回の下刈りや除伐のコストが増す可能性が高い。さらに、育林(ハード)と経営(ソフト)の両方での低コスト育林の構築が大切である。たとえば、伐採後1、2年放置される事例があり、地拵えや下刈りのコストが高くなる。主伐+地拵え+植栽+下刈りまでの一貫契約は有効である。同時にこれらの省力型育林体系の実現には、柔軟な造林補助金制度が必要である。標準単価よりも低コストの方法を選択する動機付けは現場には乏しい。
(講師講演要旨から)
(2) ディスカッション
基調講演の後、参加者の間でディスカッションが行われましたが、次のような点が議論されました。
- シカ剥皮被害対策のコストは今や植林コストの半分程度を占める場合もあり、きわめて重要な課題。
- 地拵えの機械化については機械の導入コストや燃料コストも考えてコスト削減の効果を分析すべき。
- 伐採時点で造林コスト削減を考慮した施業をすることが重要。
- 下刈りコスト削減を図るための薬剤散布の可能性(70年代までは研究がされていたが社会問題になり中止した経緯がある)。林業家は一般的に水源を保護する意識が強く、大規模な使用は行っていない。
- 造林経費は将来の生産のための経費か、または伐採に必然的に伴う経費なのか。
- 造林の直接経費以外に間接費も必要であり、経営体としての収支も考慮すべき。
- 造林コスト削減を目的とする施業(低密度植栽、坪刈、下刈り回数削減等)と環境との親和性。
- コスト削減の動機付けにつながる補助金制度が必要。補助金の本来の目的を満たすような森林が育成されるかを判断するための情報提供が必要で、そのためには研究者が積極的に意見を言うべき。
- 育林コスト削減と育成される森林や生産される木材の形質や価値を総合的に評価する視点が重要。どのような森林になるのかを実証するデータが少ない。
- 森林総研などが国有林を使って技術面、経営面での研究を行い、成果を現場にフィードバックすることが必要。
- 経済原則に従って造林経費にかかる金利も考慮する必要がある。
- 造林コストというストレートなテーマだが、様々な課題を包含しており奥が深い。今後更に議論が必要。
(3) アンケートでの意見
セミナーについてのアンケートの結果、参加いただいたアドバイザーの方々からは次のような意見や感想が寄せられました。
- 生産の方向が並材に向いているというが、木材産業界は消費者に対して良質材の需要喚起の努力をしてきたのか疑問である。
- マーケティングを再考する必要がある。
- 保育が上がった時点で投資額と木材の評価額を比較して、経費削減の効果を評価すべきとの意見は説得力がある。
- 造林コスト削減の前提条件(通常伐期で、雪害は考えないなど)が明確で、議論が深まった。
- 個々の技術にかかる調査ばかりで、全体が無いという点については同感である。
- 基調講演は課題に対して的確な内容だった。
- 造林、育林の各工程について大変な努力でよく取りまとめてあり、敬意を表する。
- 育林目標に適合し、千変万化の立地、環境条件に応じたマニュアル作りをしなければ現実に役立つ応用ができないのではないか。
また、今後議論を深めるべき事項として以下が挙げられました。
- 地域の特性による植栽樹種、植栽本数の考え方。
- 林業従事者問題(日当、雇用の促進)
- シカや風雪害などのリスク(コスト増や収入減の要因)
- 「経営」の概念を明確にして、その共通認識の基づいて全ての議論を進めていくことが大前提である。
詳しくはセミナーの議事概要でお知らせいたします。議事概要はただいま作成中ですので、もうしばらくお待ちください。